※この物語はフィクションです。
大阪のとあるまちに高級な個室料亭があるらしい。そう友人は語りだした。
私はその言葉を聞き興味が湧いた。『ほう、それは興味深い。君は言った事があるのかね?』
友人は黙って頷き、こう返した。『ついてこい。案内してやる。』
どうやら案内してくれるようだ。それならば行くしかない。私は依然興味が湧いた。
案内されること30分。その『料亭』やらがある場所に到着した。
私は驚いて思わず声が出てしまった。『こんなに店が並んでいるのか。』
私の想像ではこじんまりとした店が一軒。そんな想像だったのだが、事実は予想に反したのだ。店、というよりその一帯に料亭が佇んで軒を連ねているのである。
私は友人に尋ねた。『この店のどこがオススメなのかね。』友人はこう返す『それは自分で感じたまえ』自分で感じる?どういう事なんだと思ったが周りを見渡すと大勢の客が一帯を練り歩き各々が感じるままに店先に吸い込まれていく。『なるほど。お気に入りの料亭に入る感じなのか。』そう理解した。すると友人がこう言い放つ『それでは君も店を探したまえ。私はあの店に決めた。』そう言い店先に飲み込まれ消えていった。『私もいい店を探すか。』そう思い一帯を散策することにした。辺りを見渡すとこの一帯が異様な光景なことに気付く。
大きく開かれた店先には老婆と若い女が座って歩く人々に手招きをし声をかけまくっているのだ。私は唖然とした。『なんなんだここは。』呆気に取られていると一軒の店先の老婆が私に向かって手招きをする。それに応じるかの如く体が店に吸い込まれていく。
私は老婆に話しかけた。『もし、ちょっと尋ねるがここのおすすめはなんなのかね?』
老婆はこう返す『にいちゃん、20分1万6,000円や』私は理解出来なかったが、おそらくこの老婆はこう言っているのだろう。『料亭の利用料、料理の価格が1万6,000円であり20分の料理のコースということなのだろう』そういうことか。なんと無くだが理解した私はこう返した。『よろしい上がらせてもらう』そういうと隣にいる若い女が話しかけてきた。『お兄さん、靴を脱いで階段上がったとこに部屋があるからついてきて。』そう言われ女の後をつけ趣きのある階段を登る。『左の部屋にはいって。』そう言われ部屋に入り机の前に腰を下ろす。
『それじゃあ先にお代頂くね。』そう言われたので先ほどの老婆の説明の通り1万6000円を女に渡す。どうやらこの料亭は前金制らしい。『高級だから食い逃げ、払えることの証明の為に前金なのだろう』私はそう考えた。『飲み物はお茶があるけど暖かいの?冷たいのどっちがいい?』女にそう聞かれる。『冷たいので頼む』私はそう返した。すると女は茶を汲みにどこかに消えていった。しばらくすると戻ってきて茶を運んできた。私は乾いた喉を潤す為に茶を飲みしばしのんびりしようそう考えていると女が話しかけてきた。『じゃあ服を全部脱いでこっちにきて』私は唖然とした。料亭なのになぜ服を脱ぐ必要があるのか?ここはかの有名な宮沢賢治作 注文の多い料理店か? それならまずい。あの作品のように進むと私は身体中にクリームを塗り酢をふりかけ食われてしまうじゃないか。確かに考えるとおかしな点が多い。外套を脱ぐのはわかるがなぜ服を全て脱ぐ必要があるのか?しかしもう遅い。
女に招かれ横になる。すると体に何か塗られるような感触がした。『ほらどうだ。やはり注文が多い料理店そのものじゃないか。私はこれからサラドか火をおこしフライにされるのだ。』
全てを諦め反抗もせずただ食われるのを待つしかない。そう思い目を閉じた。
この辺りで私の記憶は途絶えた。ハッとすると何かが終わった後だった。どうやら私はサラドにもフライにもなっていないようだ。安堵した。しかしならば先ほどのはなんだったのか?
考えてもどうにも思い出せないがなぜかすっきりとし、すごく気持ちが良かったそれだけは感じるのだ。
そうこうしているうちに時間が迫っていたので私は服を着て店を出ることにした。
すると先ほどの女が話しかけてきた『この飴を外に出たら舐めて帰って。』
そう言われ棒付き飴を渡され店を出た。出る前に先ほどの老婆に『お兄ちゃん、どうだった?』そう尋ねられ私は『うむ。悪くないだろう。また寄らせてもらう』そう返し女の言う通り棒付き飴を舐めながら帰路に向かった。不思議と飴を舐めているとあんなにも手招きをし
話しかける他の店の老婆は私を見るなり手招きも話しかけもして来ないのである。
『なるほど。どうやらこの飴には老婆を撃退する効果があるらしい。しかし不思議な料亭だった。また調査の必要があるから再訪の必要性がありそうだな。』そう思い家路に向かったのであった。